皆さんの中には、
- 財務状況が悪いと産廃許可を取得することができない?
- 赤字でも、産廃許可を取得することができるの?
といったように、産業廃棄物収集運搬業許可を取得する際の財産的要件について、不安に思っている方も多いのではないでしょうか?そこで、今回は、直前決算が債務超過の状態であったにもかかわらず、東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県・山梨県の1都4県で許可取得に成功した事例について、ご案内をさせて頂きます。
依頼内容
ご依頼者さまの所在地 | 東京都杉並区 |
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申請先自治体 | 東京都+千葉県+神奈川県+埼玉県+山梨県 |
廃棄物の種類 | 燃え殻/汚泥/廃油/廃アルカリ/廃プラスチック類/紙くず/木くず/繊維くず/動植物性残さ/ゴムくず/金属くず/ガラスくずコンクリートくず及び陶磁器くず/鉱さい/がれき類/ばいじん(石綿含有産業廃棄物を除く・水銀使用製品産業廃棄物を除く・水銀含有ばいじんなどを除く・限定無し) |
依頼内容 | 東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県・山梨県産業廃棄物収集運搬業許可申請 |
相談内容
東京都近郊で解体工事を専門に行っている。東京都建設業許可(特定許可)の解体工事業を取得済み。今後の業務展開として、東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県・山梨県の1都4県で産業廃棄物収集運搬業の許可を取得したい。
できれば急いで取得したいが、前回の決算が赤字だったので、どうしても取れないようであれば、今期中に赤字を解消してからの取得になると思う。何とか、現状で産廃許可を取得することはできないか?
弊所の対応
赤字だからといって産廃許可を取得することができないということはありません。実際に、弊所でも過去に、債務超過のお客様の産業廃棄物収集運搬業の許可を取得したことはあります。しかし、債務超過の場合は、通常の申請書類の他に「説明書」や「計画書」といった「財務状況に関する書類」を提出しなければなりません。
この「財務状況に関する書類」は自治体により様式が異なりますので、申請の際には注意が必要です。また「公認会計士」「中小企業診断士」といった資格を持っている人が書類を作成しなければならないといったような条件があることもあります。
お客さまには、上記のような債務超過に関する特殊事情を説明しました。そのうえで、「どうにか取れるのであれば、急ぎで今期中に産廃許可を取得したい」ということでしたので、弊所で受任する運びとなりました。
相談/お問合せ日 | 2020年11月 |
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申請日 | 東京都:2021年4月23日(東京都都庁の受付日)
千葉県:2021年3月26日(千葉県庁の受付日) 神奈川県:2021年2月24日(神奈川県庁の受付日) 埼玉県:2021年4月21日(埼玉県庁の受付日) 山梨県:2021年3月30日(山梨県庁の受付日) |
許可取得日 | 東京都:2021年6月11日
千葉県:2021年5月13日 神奈川県:2021年5月25日 埼玉県:2021年6月11日 山梨県:2021年5月28日 |
本事案の特徴
このお客様の特徴は、なんといっても直近の決算で大幅な債務超過にあることです。直近の貸借対照表を確認したところ3000万円程度の債務超過となっていました。しかも、経常利益や当期純利益もすべてマイナスです。
但し、この程度の債務超過は、それほど珍しいものではありません。規模の大きい会社になればなるほど、金額も大きくなっていくのは仕方ありません。また、各利益がマイナスなのも、会社の状況によっては致し方ない部分があります。
もっとも、だからと言って「許可が取れない」というわけでは決してないので、今回の申請で実際に各自治体に提出した追加書類を解説していきたいと思います。産廃許可の「財産的要件」でお困りの方は、ぜひ、参考にしてみてください。
※四角で囲っている部分が今回の申請で実際に提出した追加書類です。
東京都の場合
東京都の場合、まずは、(1)「直近の法人税の納税額」によって追加書類の必要性を判断します。続いて、(2)「直近決算期の貸借対照表において債務超過の状態(負債の総額が資産の総額を上回る状態)にあるか否か」を確認します。最後に(3)「返済不要な負債」があるか否か、および「返済不要な負債の額」によって、提出する追加書類の種類を決定します。
<東京都> |
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千葉県の場合
千葉県の場合は、東京都のように「法人税の納税額」や「返済不要な負債の有無」によって判断するのではなく、「直近の業年度末の繰越利益剰余金がマイナスか否か」によって、追加書類を判断します。
<千葉県> |
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神奈川県の場合
神奈川県の場合、手引きに特段の記載がなかったのですが、後日、下記「経理的基礎に関する改善計画書」を提出するように指示がありました。
<神奈川県> |
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埼玉県の場合
埼玉県の場合、まずは「(1)直近決算書の貸借対照表において債務超過(負債の総額が資産の総額を上回る状態)であるかどうか」を確認します。続いて「(2)直近決算期の損益計算書の経常利益が黒字(+)か赤字(-)か」を判断します。最後に「(3)直近3年分の経常利益を合算し、黒字(+)か赤字(-)か」を判断し、追加する書類の有無、種類を決定します。
<埼玉県> |
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山梨県の場合
山梨県の場合、「直前3年の事業年度における当期純利益の平均値がマイナスであった場合」「直前期の事業年度において当期純利益がマイナスであった場合」「法人税が課税されていない状況が2期以上継続していた場合」などに追加書類が必要になります。
<山梨県> |
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今回、東京都、千葉県、神奈川県、埼玉県、山梨県の1都4県において、債務超過(赤字)のお客様の産廃許可を取得した事例をもとに、「経理的基礎に関する書類」として具体的に何を追加書類として提出したのかを記載させて頂きましたが、参考になりましたでしょうか?
ここまで読んでいただいた方にはご理解いただけると思うのですが
- 自治体によって追加書類を求める判断基準が異なる
- 自治体によって追加書類の呼び名が異なる
- 書類作成の主体が「公認会計士または中小企業診断士」でなければならない場合がある
という3点に、産廃許可申請の財産的要件の難しがあるように思います。
まず「1.自治体によって追加書類を求める判断基準が異なる」という点ですが、上記に実際に記載したように、東京都は「債務超過の状態にあるか否か」と「返済不要な負債があるか否か」によって、追加で提出する書類の種類が異なってきます。この点については、手引きの該当箇所を十分に確認する必要があります。
これに対して千葉県は「繰越利益剰余金」、埼玉県は「経常利益」、山梨県は「当期純利益」を主な判断の基準にしているようです。
このように、申請先自治体によって「何」を基準に追加書類を求めるかの判断が異なりますので、御社の過去の財務諸表と手引きを十分に照らし合せながら書類の準備をする必要があります。
次に「2.自治体によって追加書類の呼び名が異なる」という点について。
こちらも上記の一覧を見て頂ければわかると思います。「収支計画書」「長期的財務計画書」「財務実績計画書」など、提出する書類の「名称」「様式」は異なりますので、各自治体で必要とされている書類を準備しましょう。
最後に「3.書類作成の主体が「公認会計士または中小企業診断士」でなければならない場合がある」という点については、十分に注意が必要です。
「公認会計士または中小企業診断士」の資格を持っている人が作成した書類でなければ、受け付けてもらえないということです。私たちのような行政書士が「東京都に提出する経理的基礎を有することの証明書」を作成したり、「埼玉県に提出する財務診断書」を作成することはできないのです。税理士でもダメです。
このように産廃許可を申請するための財産的要件をクリアするために必要な書類の中には「公認会計士または中小企業診断士」でないと作成できないものがあるので、この点については、十分に注意をしてください。
なお、このような書類には、作成した公認会計士または中小企業診断士の押印が必要のみならず、公認会計士・中小企業診断士の資格を証明するために資格証明書のコピーも添付が義務付けられています。
今回、債務超過であるにもかかわらず、東京都・千葉県・神奈川県・埼玉県・山梨県の1都4県で、無事、産廃許可を取得できたわけですが、財産的要件をクリアするために必要な書類のうち、「公認会計士または中小企業診断士」でないと作成できない書類については、「中小企業診断士」の資格を持っている方に作成をお願いし、その方の資格証明書のコピーとともに書類を提出しました。
このページの記載が、財産的要件で困っている方のお役に立てれば幸いです。